イノウエさん好奇心blog(2018.3.1〜)

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ポピュリズム台頭までの哲学史

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12月4日、日本時間22時。
オーストリアでは大統領選挙、イタリアでは憲法の改正の是非を問う国民選挙が間もなく始まる。
どちらも、自国のEU離脱を促す排外主義的な政権樹立の可能性が秘められているのだが、Brexitやトランプ氏の勝利など、昨今取りざたされるポピュリズム政治台頭の背景を、経済格差や金融の仕組みなど形而下学の諸問題からでなく、僕の知るところの哲学史から追ってみようと思います。


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人々を魅了した哲学の歴史
(2017.2.5updated)

●~16世紀
宗教的価値観(西欧・近代以前)
➡︎人々は律法や教義を価値の中心に据えていた。

●17世紀〜
経験主義(イギリス)
➡︎金銭や既に価値の認められるものや快適さ、など即物的な価値に基づく利己心が判断の基準にされやすかった。
「人は、真っ白な状態(タブラ=ラサ)で生まれてくる」ジョン・ロック(1632~1704)
「パン屋がパンを売るのは、博愛の心からではなく利己心からである」アダム・スミス(1723~1790. 『国富論』)

大陸合理主義
(フランス・ドイツ=神聖ローマ帝国
➡︎人は、生まれた時から理念によって本質に関わることができると考えられた。
「物を見る時に絶えず理念が働いている」ライプニッツ(1646~1716)


●18世紀
カントの哲学
➡︎ドイツの哲学者イマヌエル・カントによって経験主義と合理主義が統合された。

人は三つの能力(分析力・理性・判断力を含めた体系的能力)を通して、主観と美意識を働かせ、さらに世界平和や優れた芸術を産み出したり評価できると考えた。

1. 分析力(...悟性)は、瞬時に物事を分析する力、例えば、利益を把握する、経験主義の視点
2. 理性は、物事を推論立てる能力、夢や将来の構想を描く、合理主義の視点
3. 判断力は、道徳や美学的なセンスを伴う能力。例えば、公共哲学や芸術の視点

1->利己主義になりやすい 
2->理想論になりやすい 
3->平和の視点を育てる

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カント賛成組
● 19世紀
ドイツ観念主義etcフィヒテヘーゲル
➡︎世界精神(理念)が社会を発展させると考えられた(絵に描いたモチだと批判も)
Ex. 国連の基礎を作る。マルクス主義を生む。
共産主義や、普遍的人権の構想、コミュニズムを生むetc

カント批判組 
●20世紀前半
実存主義etcサルトル
➡︎観念主義は絵空事にすぎないと論じられた
「人は何かの目的に従って生きるわけでなく、生きることが目的そのものである」
「人は絶えず自由の刑に処せられている」
「実存は目的(..本質)に先だつ」
サルトル (1905~1980)
(経験主義や個人主義が広まる)
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●20世紀中盤
構造主義実存主義の否定) 
人の主体性は、構造側に決められている、と考えられた。

Ex. 自然界にある無数の元素から少数のものが集まり、例えばタンポポを形成する。同様に無数の音の中から少数の音声が組み合わされ、その地域の言語、例えば日本語が形成される。各々の形成過程は無数から少数が選択され、同種のものを構成するという共通項がある。そのため、人間の主体性にも普遍的な構造が備わっている。と、考えられた。

➡︎比較文化人類学において人間の普遍性は開かれている。
➡︎サルトルを論破。『野生の思考』
レヴィ=ストロース(1908~2009)

●20世紀後半
ポスト構造主義(脱・構築主義
➡︎人の普遍性や体系的な哲学に対して、または実存主義のような内向きの哲学に対して、それらの概念は曖昧なものだと指摘した。

ドゥルーズ(1925~1995)
・人の主体性は非連続と連続の混ざるリゾーム状態。
・人は矛盾する
・考え抜かれた賛成票と思いつきの賛成票には差異がある。
・普遍性には、奇跡のニュアンスが含まれる
これらのことに着目しよう!見直そう!
➡︎
Ex.「反復」「差異」「記憶」の概念を導入する。etc

現代
・ポスト構造主義の哲学によって、言葉には二重の意味があることや、生体の記憶や差異の影響があることが、論じられた。人は、理念をもって生まれるかもしれないし、そうでないかもしれない。
また、実存主義構造主義も、同時に成立するような多くの矛盾を肯定する哲学が直近の哲学である。

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僕の知るところの哲学史は、上記のようなものです。

そこで、なぜ、現在のポピュリズム政治や排外主義に傾向するのか、仮説を立てました。

・ポスト構造主義の哲学が象徴するように現代社会は複雑で、体系的な理解が困難である。

・思考を疲弊させるより、シンプルな理解や、開放感、いわゆるカタルシスを、ぼくらは欲している。

・はっきりと目に見える価値を重宝する経験主義は、判断の基準としやすい。

・結果的に、多様な矛盾を抱える現代の哲学ではなく、複雑な問題を切り離す排外的な哲学を、受け入れやすい。

➡︎ポピュリズム大衆迎合主義)が社会に台頭する
(UK離脱問題、トランプブームetc)

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こういうと身も蓋もないですが、上記の仮説は、ぼくたちが、わかりやすさを求めたり、認知コストを削減することが好き。ってことが背景にあるのかと思います。

なんども歴史は、経験哲学だけに基づくいわゆる利己主義と、知恵への愛情(フィロソフィア)に基づく公益優先の利益重視の立場との間を行ったり来たりしている様子。

そこで昨今離れつつある、フィロソフィアに基づく流れを取り戻すには、一言で言えば、「頭を耕す」という意味での、Culture、Cultivation=「文化を育てる」ことに、尽きると思います。
どうやって?。
という問いに、ポピュリズム社会は直面しつつ。その答えは、一人ひとりがすでに自分の方法で探っているそれ、ですね。
自分にとっては、知恵や命に対する愛情をどう育むか、という問題に直結します。


今年もお世話になりました。
8月には祖母が亡くなり、10月には新しい命が誕生しました。
命の不思議さ、輝きのようなものを感じる年でした。
みなさま、来年もブログ書くのでよろしくお願いします。^^