写真:Chim↑pom 『明日もまた見てくれるかな』の会場にて
先日、図書館員の方からある本を貸してもらったのですが、今回はその受け売りです!
『シャルリとは誰か?』(エマニュエル・トッド、2016)
この本は、2015年1月7日のシャルリ・エブドの事件の後、フランス全土で見られた大規模な民主運動について、「私はシャルリ」とメッセージが掲げられた、その現象を歴史人口学者の見地から検証した本です。
トッド氏の見解は冷淡なもので、フランス国民の行動が一種の倒錯やヒステリーのようなものだと断罪して、その根拠を詳細に語りました。
データに基づいた緻密な分析もさることながら、この辺の大胆さも面白い。
たとえば。
1960年以降のフランスで、脱キリスト教が本格的に進んだ、ということを受けて一言。
信仰が変質したり崩壊したりすると、その後にしばしば革命的な事件が起こる。形而上学的な枠組みが消失すると、人々の間にほとんど機械的に代替イデオロギーが浮上する。それらのイデオロギーは、それぞれが標榜する価値において多様だが、たいてい物理的に暴力的なものとなる。
人々から哲学(meta-physics)がなくなると、価値観は多様になるが、その大体は物理的(physical)に乱暴になるという話です。
それから社会学の中ではとても有名な、キリスト教の"予定説"(免罪符を買えば救済されると考えたカソリックに対するルターの宗教改革の時、出現したカルヴァン派の説)に言及します。この説では、何かをしたら救われるという条件を排斥した信仰に基づくので、救済される人は予め定められている、と考えられた。
そこで、カルヴァン派の影響下にある信者は、自分が選ばれているに違いないと信じて勤勉に資本を蓄え、フランスではユグノー、イギリスではピューリタンとなり、産業革命を通じて、現在君臨するアングロ・サクソン経済の基盤を作ったと言われる。そこで...
ルター派の運命予定説は、救済の可能性の前で人々が不平等であることを、人々が生まれる前から永遠の神の意志によって意義申し立ての余地なく、選ばれているか除外されているかが決まっているということを断定していた。この権威主義的で不平等主義的な神学が、1933年には、地上における即時の奴隷と不平等という要求に置き換えられたのだ。人種によって人間が選別された。人間の資格はアーリア民族の占有物となり、ユダヤ人は絶滅収容所の地獄へと宿命づけられた。ルターのいわゆる永遠の断罪が世俗の次元に転移されたのだった。
トッドさん、なんと、宗教改革の偉業とナチスの暴挙を結びつけてしまいました。さすがw
もともとの原義は形而上学(知覚できない観念的な思想を扱う学問=哲学)によって血が通っていたはずなのに、形而下学(知覚できる現象を扱う学問=実学)を通して世俗的になり、差別を生む。というような価値の両義的な問題は、とっても面白いです。
結局、あの「私はシャルリ」のデモは、脱キリスト教と貧困格差を特徴とする現代の、街ゆく人たちが、理性では否定しているはずの人種差別を、実は生理的乱暴さに関わるところで肯定したものだったと言います。
それは、まさしく難民受け入れの問題や、EUからの離脱問題、扇動政治、日本で言えば、外国人恐怖症など、もろもろ単純化される価値観に帰因するのだそうです。
ちなみに、トッドさんが乱暴と感じているのは、この著書の中ではIS関係のテロリストに焦点を合わせるのでなくて、テロリストの個別的な問題とイスラム教徒全体を積極的に分離しようとしなかったシャルリの姿勢を受け入れたフランス政府と国民の暴力性に対して、なんですね。
それから前から自分が気になっていた二つの疑問の一つを解消してくれました。
A. 風刺とはいえ少数派の拠り所とするものを冒涜するデリカシーの無さはどこからくるのか?
B. 教典に過激派組織の生まれやすい構造があるかを検証できるか?
この著書では、Aの回答を社会背景に見つけていたので、半分、腑に落ちました。ということで、
Laiciteの言葉もそうですけど、記号化による理解しやすさと、もともと血の通う原義との間にある、アンビバレンス(両義的)な価値の問題に、ポピュリズム化する現代社会は、いま直面してる、そんな感じを受けました。
ところで、先月はブログを初めて飛ばしてしまいました。本が読めなかったというのもあるんですけど、友人のクラウドファウンディングの目標額が達成されたり、なにより、井上家にNEW BABYが誕生したりと、盛りだくさんでした。やる気がないわけではありませんw
ということで、これからも、よろしくおねがいします。
読んでくれてる人で質問などあればどうぞ、コメントしてください。
- 作者: エマニュエルトッド,Emmanuel Todd,堀茂樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2016/01/20
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