イノウエさん好奇心blog(2018.3.1〜)

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『ことばの危機』(H30改正 学習指導要領について)

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とある高架下

【マチノキッド学習会21:終了】✨

 テーマ図書:『ことばの危機』(2020 阿部公彦 沼野充義 納富信留 大西克也 安藤宏 集英社
 参加:4名


 上記を今回の学習会のテーマ図書としました。
 2019年10月19日、東京大学の文学部のシンポジウムをもとに編纂された著書になります。
 文系学問への危機感が語られます。

(文学部の学問)は、ただちに数値化できない、奥深いところで社会の根幹を支えています。言い換えれば、「社会に役立つ」ことを皮相なレベルで捉えようとする成果主義功利主義的なあり方そのものに警鐘を鳴らしていくところに存在意義があるのだと言えましょう。

『ことばの危機』p206 安藤宏

 上記のように文系学問の存在意義が語られる一方で、政府は、学問に対する経済性を重視しているようです。例えば、以下のリンクでは、政府が「国立大学は『知識産業体』の自覚を」と呼びかけています。

異見交論 第1回 自民党税調会長 甘利明氏 国立大学は「知識産業体」の自覚を|

 
 立場の違いはありますが、それぞれの危機感に相互影響を及ぼしあっていることも想像に難くありません。

 一般に、功利主義の目的は経済効率で、学問の目的は真理の追求とも言われます。
 一方、経済的・軍事的理由によって学問の自治が脅かされかねないことは、戦前の研究機関が軍事協力をしてきた歴史を踏まえても明らかです。
 そのために、現・憲法において、学問の自由が不可侵であることが明記されました。(23条)
 ですが、現在、研究機関と政府とが干渉する様子は、周知のものになりつつあり、今回の図書も、その側面に着目させるものでした。

 この図書で描かれる切り口の一つは、文科省中教審による学習指導要領の改正です。高校生の選択国語(現代文AB)が、H30年の改正時に、論理国語と文学国語に別れたことが批判の対象となりました。(文末に関連記事)

 論理文学を、分けることは妥当なのか?
 皆さんどう思われますか?
 
 この改正の指導要領の文言は下記の通りです。論理国語は、「多様な文章」を、「論理的に表現する」ことを目的とし、文学国語では「心情や情景」を味わい「創作に関わる能力を育成」することを目的にしている、という内容です。

高等学校学習指導要領(H30告示)

 第1章2節 「国語科改訂の趣旨及び要点」より抜粋

 

 選択科目「論理国語」

多様な文章などを多面的・多角的に理解し、創造的に思考して自分の考えを形成し、論理的に表現する能力を育成する科目として、主として「思考力・判断力・表現力など」の創造的・論理的思考の側面の力を育成する。

 選択科目「文学国語」

小説、随筆、詩歌、脚本などに描かれた人物の心情や情景、表現の仕方などを読み味わい評価するとともに、それらの創作に関わる能力を育成する科目として、主として「思考力・判断力・表現力など」の感性・情緒の側面の力を育成する。p234

  上記のような区別を設けるならば、論理と文学でなく、論理的思考力と文学的表現力というふうに思考力と表現力を区別する方が、明解だと個人的には思わされます。

 この図書で語られるシンポジウムに登壇の皆さんは、上記のような文科省の方策を取り上げたり、センター試験の構成などの問題点をご指摘されるのでした。


 マチノキッド学習会では、専門の立場でなくても、こうした点に関連する疑問を広げ、参加者と意見交換などをしております。
 なにより、自由に言葉を発したり、疑問を共有できる場を設けることの意義も感じさせれ、当日は、翻訳の精度と解釈の余地の話や、論理におけるミクロとマクロの「差異」についてなど、話すことになりました。

 どの話題も、客観情報が主観や偶然性とどのように関係するのか、という視点から論じる事になりました。
 教育関係者の方々や、研究者の方々が、すでに議論され、考えられてきたことを、また別の視点から後追いしていることかもしれませんが、いずれにしても考察の基盤となる情報を、専門の方々が図書やオープンソースを通して提供されている事に、改めて、ありがたく思わされます。

 今回の著作は『ことばの危機』でしたが、ことばは危機を越えるときには、水や空気のように、気づいてあげられなかったけれど重要だったはずのとある価値の再発見がなされるだろうと、ブログを書きながら思わせられるのでした。
 また、客観情報と背景に関わる偶然性の重なる様子を、詳細に捉える力は、文系能力の要点の一つと思わされました。

 ことばとのお付き合いは、これからも続きます!...
 選書もありがとうございました。今後も「ことばさん」よろしくおねがいします。

 

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