
2024年11月9、10日、二日間に渡りカント300年記念大会が東北大学で開催されました。この大会には以前から興味がありました。参加を心待ちにしていたのですが宮城県へは簡単には行けません。そこで一般発表の枠があることを早々に知りまして、発表者にさえなれば強制参加の理由になるだろうと思い、公募の枠に応募することになりました。
審査結果のメールが届いた時は、すぐに開封することができないほどでした。と言うのも運命が左右されるように思えたからです。チキンの心臓が飛び出そうなほど恐る恐るiPhoneのMail.appを開いたのを覚えています。結果は、なんと採用でした。職場から帰路につき地元の調布駅からはほとんど記憶がないほど高揚して帰宅して、この世紀の吉報を妻へ報告するのでした。
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大会1日目、朝10:00に自分の発表は始まりました。定時に始まると早々に司会の先生から、論文内容の独自性をご指摘されました。発表後の質問には澱みなく回答できたものの、注目は細部に集まり自分の主題を議論するまでに至りません。傾向と対策からすでに準備したつもりでいたものの、より適切に研究者の間で抱かれる共通言語(主題)を踏まえて記述しなければ、結局のところ全体像を共有できません。アカデミズムを痛感しました。50分の発表を終え、次の二つのご発表に傾聴し、多くを学ぶことができました。一般研究発表の部が終わると、なんとなしに東京に連絡することになりまして、出席を期待した先生がいらっしゃらなかったことを踏まえ、「勉強になった」と伝えたのでした。夜の懇親会に出る意味も半ば消滅した気がしておりました。銀鮭が美味しいならそれだけでも食べに行くか、いや、自分は一体何をしに来たのか、その時間帯は落胆の時間でした。
ところが、気分を変えたのは、懇親会の前のとある出来事でした。大会の開催施設は、東北大学の川内キャンパス内にあります。仙台駅から10分弱の鉄道の駅を降り、さらに徒歩で5,6分のところに位置する校舎です。校舎の裏手から歩けば、一つ隣の駅「国際センター」にも辿り着ける立地です。試しに昼休憩の時間、その方向へ歩き出すと瞬く間に仙台城跡に遭遇します。そこには歴史を感じさせる石碑が随所にあるので、ただならぬ雰囲気が漂います。
朝下車した大学キャンパスに隣接する川内駅はすでに高台なので気がつかないのですが、一つ手前の「国際センター」から歩けば、丘の上に位置することが明瞭です。一時間の休憩を利用してそのまま城跡を辿り、足早に歴史観察を始めると「仙台」の「台」が旧字体で「仙臺」と記されていたことにも気がつかされます。このあたりに来ると、学会の開催場所というよりも、由緒正しき土地に訪れていたことがわかってきました。

「仙台」が「仙臺」であることがわかると、その石碑と界隈にはいっそう厳かな空気に包まれるような気配があります。むしろ、「仙台の「仙」は仙人様の「仙」なのではないかと、ひらめきまで訪れます。それと比較しても遜色のないような雰囲気の青葉城の城壁が、高台の上に佇んでいるからです。仙人が住まわれていたに違いないとエビデンスのない、身勝手な勘が膨らみ自分の気分は快晴の空のようになりました。午前中の落胆もそっちのけで、「来てよかった」と感慨深い思いまで味わうことができました。
1日目の午後には、「自由の原因性」と言う主題を掲げるシンポジウムが設けられており、哲学好きにはなんとも素晴らしいテーマと思わせられ、ここでも良い時間を共有させて頂くことができました。そして夜の懇親会ではかれこれ4年前にこの学会への入会を希望した際に打診させていただいたとある先生に、感謝の意を伝えられたら良いなと思わせられます。
会場では同じ研究発表の方々ともご挨拶を交わし、いよいよ宴もたけなわとなるころ、その先生がお一人でいらっしゃる場面がありました。その時にすっと近づき、謝意を伝えることもできました。これで十分だったのですが、さらなる先生の返答がありまして。井上さんの発表は協会にとってもありがたいですよ、との旨を伝えて頂いたのでした。恩義を受けたまま何もお返しできない自分にとって、これ以上にない安堵の言葉でした。
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川内キャンパスは、仙人のおられる台座です。東北大学には、そのような不思議な歴史に包まれていたと思います。エッセイのようですがこの日、自分は本当に良い経験を得られたのでした。1日目、午前中の部を終えた自分は敗北者のようでしたが、早々に復帰できたようです。仙台では国分町の一角の宿で良い眠りにつきました。二日目の基調講演は、前・会長の御子柴先生によるものです。さらに「21世紀の平和論」を主題としたシンポジウムが行われ、現代的な課題が議論の俎上にのぼりました。自分にとって実りある会となりました。
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カントは大哲学者ですが、それにしてもたった一人の哲学者を通して、全国津々浦々から研究者が集まり、知見を交わす、コロナ禍のもとではなし得なかった素晴らしい会だと思わされました。本大会のご準備に携わられた皆様、本当におつかれさまでした。そして、ありがとうございました。
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