イノウエさん好奇心blog(2018.3.1〜)

MachinoKid Research 「学習会」公式ブログ ゼロから始める「専門研究」

『日本の名著 30 横井小楠 佐久間象山』(1970 松浦玲)

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池袋・立教大学のヒマラヤスギ

  第13回マチノキッド学習会は『横井小楠』を取り上げました。

 学習会でも取り上げてきたハンナ・アーレントのように、実践を重んじる点で、横井小楠の思想は、「実学」なのでした。

 空回りする知識の理想でなく、現実の仕組みを背景にした「理想」に基づきます。

 社会の実情を見ると困っている人が大勢います。理想が何かを問えば、困窮する人だけでなく、あらゆる紛争が社会から減少することかもしれません。ですが、現実はたやすくは変わりません。

  理想を唱えたとしても、空振りに終わる。そんな落胆を味わうこともあります。そこで、現実社会の行動の大切さに気がつかされます。

 ふと思い出されるのは、目の前で困っている人がいる時のことです。
 落胆していようが溌剌だろうが、人並みにぼくも手助けをすると思います。
 先日、夕暮れ時、バイクのブレーキの音が聞こえ、外に出ると10代らしき男の子がスクーターで横転していました。歩道に移動するのを手伝い、必要な措置をしました。また、10cmくらいの段差で転んだ老父の方にも今週、遭遇しました。肩を貸して、雑談をした程度ですけど、いずれにしても、理想がどうこうではなく、反射的な応対となりました。

 どれほど役立てたかは別にしても、目の前で起きたトラブルには、すぐに対処します。では、目の前にいない多くの人にも、即座に対処できるでしょうか?
 

 目の前で転倒する人を助けることはできます。
 目に見えないところで苦しんでいる人を、助けられる方法は何か?

 と問われたら、ぼくは総括して、こう言います。
 「その人にしかできない職種で、人の役に立つこと」です。
 

 難しい理想を唱える以前に、この小さい方針が大きな効果を生むと思うからです。

 実業家であれば、仕事の無い人に仕事を創り出すこと、経済学者であれば、消費を活性化すること、かもしれません。これに加えて、より効果的に個性を生かせれば、目に見えない第三者をより多く助けられることも自明です。他者と競合しない新しい分野を開拓したり、既存の資源に新しい価値を発見する役目が、個性や独自性にあるからです。

 そういうわけで、ぼくは、小さい活動をする時から、この視点に着目する次第です。そこで、問われるのは、果たしてそれが本当に生産的かどうかです。
 この問いに答えるのが、今回の著書でした。

 横井小楠は、古代に存在した、理想的な学校について、こう論じました。

(堯舜の時代の学校では)その人、固有の徳性に基づいて、人たる職分を尽くさせようとするだけだから、強制して教えることはしなかった
『国是三論・士道』

 と言います。
 この固有の徳性については、士道としても捉えられました。

 人と生まれては必ず父母があり、武士となれば必ず主君がある。君父に仕えて忠孝を尽くすのは人の人たる道であるけれども、これは固有の天性として備わっているのであって、教えられて初めて知るというようなものではない。

 忠孝の道を尽くそうとする天性を、徳性に基づき原理に従って正しく導くのが文の道であり、その心を治め胆を練り、その成果を武技や政治で試してみるのが武の道である。
『国是三論・士道』

  横井小楠の、徳性は、理想(天帝の政治)を実学に繋げる時に不可欠なものでした。

  山川・草木・鳥獣・貨物それぞれの徳性を発揮させて利用し、地をひらき、山野に路をつけ、地上のあらゆるものを皆人間生活を豊かにするため役立てた。
 水・火・木・金・土・穀の六腑、それぞれの効用を尽くし、利用されないものは一つもなかった。これが、天帝を敬し天帝の命を受けて、工作工夫する政治だったのである
『沼山閑話』

  知識ではなくを会得します。

 注意しなければならないのは、「知る」と「合点する」とは違うということです。世界の理は幾千万の物事についてそれぞれ異なっておりしかも一つ一つが変化いたします。

 だから、物事をただ知っているだけでは、いくら数多く知っていても形を見ているにすぎず、活用することができません。合点するというのは、書物を参考としてそのを会得することです。を自分のものにしてしまえば、書物はもうに過ぎません。
『沼山対談』
横井小楠井上毅の談話)

 横井小楠が何かを「利用する」という時は、その時々の利益という考えでなく、「天帝」という言葉の示すように、世界全体を通じた「」に適う豊かさを意味します。
 そのようなわけで、すくなくとも横井小楠の論旨を介せば、ものや個人に固有の「徳性」が、人間の生活の豊かさに影響すると、説かれていたことがわかると思います。

 上記は、学習会でも話された、ほんの一部の小楠の視点になりますが、その視点の力強さを、あらためて確認すると、外見は地味に見えるかもしれませんが、少なくとも心意気は、クリスマスのイルミネーションさながら、華々しい心地です。

 後日、ここでは紹介できない、小楠の壮大な世界観について、現代に活用されるべき!とイノウエの思う論点を、マチノキッドリサーチ内でも、アップデートしようと思います。

 今月も良い文献とお付き合いができたようです。来年の学習会もよろしくお願いいたします。

 

日本の名著〈30〉佐久間象山・横井小楠 (1970年)

日本の名著〈30〉佐久間象山・横井小楠 (1970年)

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 中央公論社
  • 発売日: 1970
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