イノウエさん好奇心blog(2018.3.1〜)

MachinoKid Research 「学習会」公式ブログ ゼロから始める「Humanitas/人文科学」研究

『ピエール・ブルデュー(1930-2002)』

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 月一の学習会にて、今回取り上げさせていただいたテーマ図書は、『ピエール・ブルデュー1930-2002)』(著 加藤晴久 藤原書店)です。

 

 ブルデューはフランスの社会学者です。どんな方だったかと言うと、たとえば、とある命題があり、それが「寛容は美意識に基づくものである」であった場合。この感覚を、理論と仮説で論じるのではなく、統計に基づいて考察するのがブルデューでした。 

 早速、対談内容から、興味深かった点を引用します。

" ペンで紙の上に書く、チョークで黒板に書く、大きく描く、小さく描く、いろいろですが、一人の人間が書くものには固有の形、姿、特徴があって、それを見ればすぐ、これはあなたの書いたもの、これは私の書いたものとわかります。多様性を超えたところに、ある統一性があるわけです。p27"

 なにをしてもその人の跡が残される、ということでしょうか

" これがどのようにして形成されるか。興味深いのは、ハビトゥスは明らかに後天的に獲得されるのですが、それの獲得のされ方は全く無意識的であるということです。ハビトゥスという私たちの中にある原理、文法は私たちに左右できないもの、私たちの統制の及ばないものであるということです。p27"

 ハビトゥス≒生成原理(社会構造と、そのなかで人々が構築し、産出する、認識、判断、行為との間を、媒介する概念 コトバンク

" 決定論を認識することによって一つの自由を獲得できるのです。(略)例を挙げます。デカルトスピノザライプニッツら古典哲学者は、人間は情念を持っていると言っています。彼らが情念について語っていることは私がハビトゥスについていうことと同じです。情念を変えることは難しい、情念を変える一つの方法は情念を知ることだというわけです。p28" 

 このブルデューの指摘に対し、取材者の加藤氏はこう返答します。

 

" よくあなたは、重力の法則があるからこそ飛べるのだとおっしゃいますが、そういう意味での自由ということですね。p29"

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 上記を含め興味いやりとりを垣間見ることができました

 人は環境に束縛されているとは、よく言いますが、情念に支配されているという、視点は新鮮でした。想像力があるからこそ、身にしみる拘束力です。

 

 そこで、目下、ぼくにとっての興味は、ハビトゥス(≒生成原理)を知ることで、いったい、どのような自由を得られるのか、という点に移ることになったものの、実際には、まだピンときておりません。
 

 この機会に、彼の主著の一つ、『ディスタンクシオン』を手に取り、ざっと眺めてみました。漠然としたままですが、ぼく自身が、この学習会でハビトゥスを知ったことで、また別の課題を抱くことができたと思います。そこで、ハビトゥスによってまた別の意欲を発揮したのだと気がつかされました。

 

   この、意欲とは、

「ブログを書くことです」

 

 ぼくのハビトゥスはカントの言うところの「判断力」や、ブルデューの言うところの「社会的判断力」の原理を知ったこと、あるいは、この知識を得ることのできる自分の生活環境そのものだったと思わされます。

  冒頭のメタファーに置き換えれば。一連の生活の、因果関係が、ぼくの固有の筆跡になるのかと思います。

 

   ブルデューの著書『ディスタンクシオン』の副題は、『社会学判断力批判』です。ここで『判断力』がブルデューにとって重要なテーマだったことがわかります。

 『ディスタンクシオン』は、フランス語で、Distinction=識別を意味します。転じて、≒卓越化、と訳されました。

 人と自分との違い≒個性は、差別化の結果だと考えたわけです。この差別化≒卓越化は、どのような資質をその人の個性として扱うのでしょうか、気になるところです。

 

 自分がもしコカ・コーラを好きであれば、コカ・コーラを毎日飲んでいる、というだけでその習慣を、その人の個性と言って良いか。

 どうでしょうか?

 カントによれば、純粋な判断力とは、身体感覚にも習慣にも囚われない生得的な判断力です。

 単に美味しいから、という理由でコーラを好きになった場合には、その人らしさ、とは関わりを持たないことになります。

 

 たとえ、コーラが好きでも味覚だけを根拠にすれば、人との差別化を意味する、ディスタンクシオンの条件には合致しない、ということです。

 

 これらを踏まえると、例えば、現代アートはどのように卓越化が図られているのか、という視点でも作品を見ることができます。この観点に投射範囲は広範にわたるようです。

 芸術や美学まで、守備範囲の広いこの『判断力』は、この原理を知ったことで、さらに哲学に興味を惹かれ、自分の生活環境を再構成していったのだと思います。ここに、ハビトゥスを感じないわけにはいきません。それを知ったことで、自由を1つ増やしたと言えるのかと思います。

 

 今回も、学習会を通して、独学も続けた結果、実りあるものとなりました。読んでいただいた方ありがとうございました。

 

 次回の学習会。

再び、ハンナ・アーレント『政治の約束』を取り上げます。

 

 

ピエール・ブルデュー―1930‐2002

ピエール・ブルデュー―1930‐2002