イノウエさん好奇心blog(2018.3.1〜)

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アダム・スミス問題

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経済学の父、"見えざる手"でおなじみの、アダム・スミス(1723~1790)は、カントの一才年上のイギリス人です。
こんな言葉を残したことで良く知られています。
(追記12/8)

われわれが食事を楽しみにするのは、肉屋や酒屋やパン屋の博愛心からでなく、彼らの利己心からである。
国富論』第一編二章
It is not from the benevolence of the butcher, the brewer, or the baker, that we expect our dinner, but from their regard to their own interest.

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ところで、
日経新聞6月18日 29面 

経済学にちなんだ面白い話が掲載されてました。

 日本人の精神性と経済の関係を考える上では、経済学の父として知られる英国のアダム・スミスが著した「道徳感情論」が重要となります。
 同著はスミスの名声を最初に確立した大著です。英グラスゴー大学の道徳哲学教授だった頃の講義の産物で、「国富論」(1776)より17年前のことです。

 冒頭、スミスは有名な「共感」の理論を提示します。人間は確かに利己的で自己中心的な存在ですが、他人に深い関心を抱き、他人の幸福を見る以外に何も得はしないのに他人の幸福を共有できる、と説きます。
 西洋の経済学は、利己心と競争が根本原理でした。その「父」であるスミスが他人の幸福を自分自身の喜びとする「共感」を重視したことは奇妙に思われます。実際「国富論」の利己心「道徳感情論」の共感とが矛盾しないのかは、「アダム・スミス問題」としていまも未解決です。

 「共感」を日本人の精神性と比べましょう。「共感」の本質を利己的と見る解釈は「情けは人の為ならず」という考え方です。2001年の文化庁の調査では、回答者の半数以上が、このことわざを、同情は相手にとってかえって悪い結果を招くという意味で理解していましたが、正しい解釈は「他人に同情するのは自分が困った時に助けてもらえるから」です。
 他方、利他的な解釈の「共感」は他人の苦しみを思いやる「憐憫(れんびん)」を意味します。かつて新渡戸稲造が著書「武士道」で指摘した「仁」など.....(略)


慶応大学 坂本達哉教授


アダム・スミス問題」、未解決なんですね。
あと

「情けは人の為ならず」

この言葉、照れ隠しの言葉、でもありますよね?
「情けをかけるのは、いずれ自分にまわってくるから」、なんていって、優しいことする。
粋じゃないですか^ ^


...続きもあるんです。

日経新聞6月22日 17面 

 行為者に対する「共感」と自分自身の行動とのバランスを取ることが適切な道徳判断に繋がり、そういう行動をする人を「公平な観察者」といいます。
 「公平な観察者」はキリスト教の「神」の言い換えなどと言われてきましたが、最初に「公平な観察者」と唱えたアダム・スミスは「胸中の人」と言い換えて、その超然とした性格を強調しました。

原文では、こう表記されてます。
「胸中の人」=「the great inmate of the breast」


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追記:
ところで、この問題。こんな感じで考えると解決するんじゃないでしょうか?
素人意見ですけど、

そもそも、いろんな人が居て、それも、時と場合に寄りますけど、共感をわりと高感度に持つ人(公共系と言うことにして)と、共感より自分の得を優先する利己系の人がいる。
前者は、自分の損得勘定よりも、社会全体の利益を優先したり、なんとなく共同体の未来に共鳴する人なので、公共政策の仕事に就くとバリバリ良い仕事をするはず。
この人達は、胸を張って、共感=胸中の人、を優先させた方が良いと考える。

"利己系"の人は、周囲に気を配りながらも、自己利益を目標にして商業的にも良い仕事をする。そこで、この人達は自分の利潤に適うことを優先させた方が良いと考える。

そこまでなら、立場によって意見が違うから、問題の答えはまとまらない...

ですけど。
実のところ、社会は公共の仕事に関わる敏腕な人達が働いて、うまく回ってる。それを踏まえると、公共系の人達の抱く"共感"は大事だと思わされる。

彼らの社会へ対する共感の力が強ければ強いほど、社会には精度の高いルールや政策が生まれて、秩序も保たれる(特定の地域の人が儲かるような、へんな法案とか作らない)。最終的には、うまく回って生活者に福利が返ってくる。

結論。
共感しやすい人でも、共感しにくい人でも、(本音はさておき)「自己利潤より共感が大事」と思っておいた方が、公共のルール作りをする人達を大事にできて、社会の恩恵を受けやすくなる。

こんな理由だと、解決するんじゃないでしょうか?


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道徳感情論〈上〉 (岩波文庫)

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