セーレン・キェルケゴール(1813~1855)は、著書『反復』1848の中で、反復の恋、について語り、“反復”を高く評価しました。
反復の恋とは、幸福な恋です。
反復はいつまでも飽くことのない愛妻である。飽きがくるのはただ新しいものだけである。
p10『反復』
反復の恋は、新しいものを好みません^^!
古いものが目の前にあると、人は幸福になる、しかも反復が何か新しいものでなければならぬかのように思い違いしない人だけが本当に幸福になる
p10 『反復』
ただ、反復の恋を忘れさせるものがあるとすれば、その一つは、法則だそうです。
仏哲学者、ジル・ドゥルーズ(1925~1995)先生はこう言います。
道徳法則によっては、私たちは真の"反復"を得るどころか、反対にまたもや一般性の中に留まってしまうのである。
p24『差異と反復』ジル・ドゥルーズ
法則は、同じ結果を繰り返すので、"反復"ではありません。
反復(Gjentagelse.)は立派なデンマーク語である。ふつうの"繰り返す"の意味のほかに、一度人手に渡ったものを "回収する"とか失ったものを"取り戻す"〜等の意味にも使われる。p172(注)『反復』
反復は、過去を"取り戻す"ので、特別なんです。
キェルケゴールは反復を、恋になぞらえましたが、ドゥルーズは反復を、交換できない価値になぞらえます。
反復は、交換不可能な、置換不可能なある特異性に関わる。反映、反響、分身、魂は、類似ないし等価の領域には属していない。
p19『差異と反復』
ここで"特異性"と言っているのは、"一般性"と対比される固有の価値="もともと特別なオンリーワン♪"の価値です。
"等価"というのは、"一般性"の代表格で、資本主義で重宝されるもので、反復と対比されます。
自分なりに恋愛に置き換えてみますと、ギブ&テイクで契約する恋や、刺激ばかりの恋愛、はたまた、プレゼントを現金でわたす、というような味気ない恋が反復に対比されると思われます。
反復は、芸術作品のような"特異性"でもあるそうです。
一個の芸術作品を概念なき特異性として反復するのであって、一つの詩が暗唱され、心でおぼえられなければならないということは、偶然ではないのだ。頭脳は交換の器官であるが、心は、反復を愛する器官である
p20『差異と反復』
頭脳は交換。心は反復を愛する。ということですね。
この"反復"、一見、超絶、難しい哲学用語ですけど。
どうやら、恋心のような価値、というのがわかりました。
なぜ今、この話?
この"反復"、どうして取り上げたかと言うと、キルケゴールや、ドゥルーズは、この反復のことについて、それまでの哲学者が着目しなかったことを悲観して、今の国連の基礎を築いたカントの哲学にまで、その批判を及ばせているからです。
ぼくらも良く耳にする、普遍的人権。
この普遍性が“道徳の法則”である間、“法則”であることによって形骸化する道徳に対して意義を唱えます。
簡単に言うと、"法則で決まってるから他国を助けよう"、これではダメ!の発想です。
要するに、"反復"でないことを問題にします。
結局は、今の世界情勢では、人権を第一に掲げて協力し合う国際組織の円滑な活動は、実際には大国の利権の問題などが障壁となって困難を伴う、かもしれないですけど。
法則や道徳のもとを辿るやり方があるなら、その方法で日本人が守ろうとする人権や平和の思想を見直しても、良いように思います。
国民の命を守るために、できるだけ武器を使用しない社会にすること、できるだけ恨みの連鎖に足を踏み入れないこと、を徹底している活動は誇るべき平和思想だと思います。
(追記2017.11.30)
その意味で、銃規制の成功や、予防戦争を断固否定する姿勢や、施政権内の領域を超えて武器を使用しない自衛の哲学を、世界の標準にどう関連づけるか、という活動が意義ある挑戦になると思います。例えばそのような、スローガンを抱いて、国際PKOの先制攻撃も容認する現行の任務体制に、異を唱えたほうが、今の自民党のやり方より穏やかに、安全保障に寄与するように思います。
そんなマクロな視点からも、"反復の恋"を知っておくのは、無駄ではなさそうですね。
最後は、お決まりの台詞でしめたいと思います。
反復を選んだものだけが本当に生きるのである
p10『反復』キェルケゴール
反復横跳びの"反復"ではありません。
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